MOSHA

数日前の話。ずっと観たかった作品を観ようと某映画館へ行った。少し早めに着き、トイレへ行ったり携帯電話をいじったりして、上映が始まるのを待っていたのだが、斜め後ろからやたら視線を感じる。振り向くのもナンだったけれど、あまりにも強い視線だったのでガバッと振り返った。したらば、丸刈りの青年がわたしの方を見ては視線を下に落とし、またコチラを見てはフッと下を見る。見た目は、こう、なにか宗教に入れ込んでるような浮世離れした顔つきにヒマラヤ山脈の麓で暮らしている民族の衣装みたいな服を着ていて、見るからに怪しい。こちらを見ているにも関わらず視線が合わない。


何事か!と。


彼の足元に何があるのかと思って身を乗り出して見たら、彼はスケッチブックと筆記具を持っていた。描かれていたのはわたし。


……めっちゃくちゃ似てるぜ。忠実に描きすぎてるから“まぁまぁのブス”がそのページみは描かれてるんだけど(泣)、“オマエ少しくらいは美化して描けよ!”と思ったよね。スナック菓子を貪り食べる生活習慣がもたらしたほっぺたの特大ニキビも陰影をつけて描いてて“わたしのニキビにその模写力が使われるなんて贅沢!”って思ってちょっと喜んじゃったよね。

で、上映が始まるというアナウンスと共に、彼がスケッチブックを閉じようとしたまさにその瞬間、何の特徴も無いオッサンが描かれたページがこちらに向けられた。……超フツーのオッサン。特筆すべき特徴が皆無の中年男性もアンタが描いたのかよ、と。
とりあえず目に入った人間を片っぱしから描いてるだけに過ぎないのだろうが、そのスタンスに“ヤらせてくれるなら誰でもいい”的こだわりの無さを感じた。……えっとなんの話してたんだっけか。

どうでもいい。彼のあの模写力がどうか日の目を浴びて欲しい。